「音色」と「音量」は異なった概念ですが、音楽を表現するうえで「音色的な音量」があり得ると思います。
音楽における音量とは音圧レベルでの大小で表される概念だけではありません。聴こえない音はピアノとは異なります。がなり立てる大音量はうるさいだけ。これはフォルテとは異なります。充分に聴こえるピアノは心に染み入るし、耳にうるさくない大音量の演奏には壮大さが生まれます。その意味で音量の音楽的な質も演奏上重要な概念です。
一般的にクラシック音楽では広がりある包み込まれるような音量感を求められます。それが音楽世界を作り上げ、聴き手を別世界にいざなうことになります。広がりあり包み込まれる音量感は演奏技術にも楽器にも、またホールなど演奏場所にも依存します。
ホールで弾くと反射音が多く音が広がって残響が付いて聴こえますし、音量も平滑化されます。その意味でクラシック音楽を成り立たせるためには演奏場所は重要です。ホールで弾くからこそクラシック音楽らしさが生まれます。
ですが、そもそもの演奏技術や楽器に依存する面も強いことは否めません。弓でヴァイオリンの胴体を押し潰さないように弾くと広がりある音量が出ます※。また、ヴァイオリン全体が振動する楽器でこそ広がりある音が出ます。演奏と楽器と場所が三位一体となって音楽は聴き手を別世界にいざなう魔力になるのでしょう。
演奏とは聴き手を別世界に連れていくこと。そのためにも、演奏技術と楽器の両面で広がりある音量を引き出そうとなさってみてはと思います。
※ヴァイオリンの表板は柔らかいスプルース材。手で撓ませた感覚はボール紙のようです。裏板のメイプル材も相まって、良質な楽器は四方八方に音が広がるようにできています。ボール紙のような柔らかいものを強く押し潰してしまうような弾き方をしては広がりある音は出ません。もちろんムラだらけの弾き方ではその都度響きを止めてしまいます。