概ねヴァイオリンのお話ではありません。美意識の話です。
金曜日。酷暑36度。自分の車アルファロメオ147GTAは暑いと調子が悪くなるのでレンタカーを(夏場は先日手放した4Cに乗っていた)。
機会あるごとに様々な国の車をレンタカーやカーシェアで試して、ヴァイオリン音楽や楽器との共通点を多く感じてきた。「ドイツ車はドイツの音楽や楽器に共通するリズム感や色彩感がある」などだ。その中で「日本ってどうなの?」「日本がどんな国なのか自分は知っているの?」の疑問も生じていた。
日本らしい車の最右翼→トヨタクラウンだ。「いつかはクラウン」のコピーの通り、日本的社会での成功を意味する。旦那さんは「出世して皆に喜んで欲しい」と頑張る。奥さんのために、親族の恥にならないように、近所でひとかどの扱いを受けたいがために。頑張った結果、部長になってクラウンに乗れば目立ち過ぎないがそれなりに扱ってもらえるのだ。家制度に根ざした社会の分かりやすい姿だ。
そんな優しい心情の機微は「マウント」の言葉で叩き潰され、「旦那さん」も「奥さん」も言葉狩りに遭うようになった。クラウンすらも2022年の新型から国内専用車ではなくなりコンセプトが変わった。体験できなくなる前に旧型クラウンに乗って「日本」を知っておきたいと思った。

タステックレンタリースさんにて6時間12,650円
それほど高額ではない
驚異的な車だった。全てが気にならないように仕上げてある。運転すれば大きなサイズも感じさせない、走りもハンドリングも軽やか、助手席との距離は程々、難しいと感じる操作もない、全てが程よい位置に配置され手触りも良い、60キロ程度と思った速さが確かに60キロだ、車幅感覚も想像以上でも以下でもない、とても静かだが圧迫感はない、車内の匂いも少し和室を思わせるが気にならない、エアコンも暑くも寒くもない、急ハンドル急ブレーキすら心拍数を上げず落ち着いていられる、それなのに退屈でもない。
優秀な執事とも言えるし、引き立て役になって主君を立てる家臣の姿だ。
カーオーディオにすら思想は徹底されていた。どんな音楽をかけても気にならない。武満徹「ノヴェンバーステップス」がとても似合いつつ、パヴァロッティの歌もリュカ・ドゥヴァルクのピアノもイザベル・ファウストのヴァイオリンも、ビートルズも細川たかしも谷村新司も坂本九も、良過ぎない音・邪魔にならない音質で全て違和感なく再生する。
気にならない事。究極の美のあり方のひとつだ。日本刀も茶道具もヴァイオリンも良い工芸品はともすれば少し地味に見えてしまうくらいに全てが当たり前で気にならないのだ。それはヴァイオリンの演奏でも究極の技術かもしれない。練習の多くは気にならない演奏・邪魔しない演奏をするためのことかもしれない。
徳川家康の遺訓を思い出した。トヨタは確かに家康と同じ愛知県の三河地方の企業だ。
人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。
不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。
堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。
勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。
おのれを責めて人をせむるな。
及ばざるは過ぎたるよりまされり。
「いつかはクラウンに」これなら良識ある人にとって何の不満も生じないだろう。60年もの間継承し続けたブランドの集大成で日本の究極を経験してしまったかもしれない。これが新車で500万円台、中古なら200万円台で買える。燃費は20km/lを超えた。懐具合すら主君に気にさせない。
ただ自分にはクラウンは似合わないと思ったが^^;。自分にはポンコツだけれども車が事あるごとに主張するおもしろおかしいアルファロメオがお似合いかもしれない。

越谷JAで買った野菜やお米を自宅まで運んできた
なんて立派な車(覆面パトカーにも見えるが)
でも運転手や同乗者には出しゃばらず慎ましい
小柄な嫁さんも何の問題もなくうまく運転できた。どんな人にとっても適切におもてなしを。失われようとしつつある美しき日本文化すら感じました。