「特別な弓」の楽しみ

木曜は東京にてレッスン。お越し頂いた皆様有難うございました。お譲りすることにした私の弓をお求め頂いた方もおられ本当に有難うございました。うまくお役立て頂ければと願っております。

良い弓の弾き方やオールド弓の味わいについてお話しさせて頂いた方がおられた。私としても得意とする分野だ。良い弓であれこれ弾いて頂きながら弓の能力を出せるよう進めさせて頂いた。

良い弓という言い方は適切ではないかもしれない。「特別な弓」だ。非常に大雑把な区分けになってしまうが、状態に問題がなければ通常店頭販売価格400〜500万円以上の弓と言っても良い(最近はもっと値上がりしているだろうけれど、日本での相場が分からなくなっている)。

そういう弓は面白くて「人間が弾くのではなく、弓が勝手に音楽を奏でるもの」「自我を出してはいけない」「無念無想」といった名演奏家たちの言葉が本当に意味をなすことになる。人間が指図を出さず弓の意思に従って弓の自由にさせてあげると立体感と生命感を持った音が浮かび上がってくる。それが音楽なのだとも思う。演奏家が「音楽のしもべ」と言われる所以だ。

言うのは簡単なのだが、「弓任せに」と言われても意味不明なこととも思う。実際には人間が弾いているのだからそんなのはオカルトだと言われかねない。「可能な限り擦らなくて大丈夫だから」「踊るように弾くものだ」「弓が良いようにやってくれるのだからその邪魔をしないで」といったお話をしつつ、一瞬でも活きた音が出た瞬間があればそこを糸口にして加減を探して頂けるようにする。

録音には乗らないような音かもしれない。そんな音は必要とされない事かもしれない。音楽の自律性に価値を見出さない演奏家も多いし、道具が意思を持つのは邪魔だと感じる演奏家も多いだろう(実際、意思を持った楽器は弾きにくいです)。

独立した生き物のように浮かび上がって動き出す音楽。それを必要とする方には「特別な弓」は面白がってもらえる道具と思う。

この中には「特別な弓」もそれほど特別ではない弓もあります。
どれも同じような見た目なんですけどね・・・。