その楽器の能力を出すことは上手い演奏

水曜は東京にてレッスン。強風の中、多くの方にご利用・お越し頂き有難うございました。

「ヴァイオリンを上手く弾く」とは?という命題。楽器の能力を最大限引き出すことと考えている。音程やリズムはもちろんだが、楽器の隅々まで振動させて太く大きい音が出せることの方が難易度は高い。

例えばトルテとペカットの弓では能力を出した結果が大きく異なる。これを無理やり同じ音にするのは不毛な努力だ。それはフォークの背にライスを乗せて、それが正しいマナーと言い張るようなものだ。道具はニーズに即してできているものだ。

バロック音楽の演奏で形だけのバロックスタイルは多い。これも楽器の性質に合わせて弾くのが望ましいと考える。バロック弓は本当に中膨らみの音だったのか?現代の弓よりも貧弱な音だったのか?ストラディヴァリやグァルネリから音を存分に引き出せる弓だったはずだが?

楽器は当時の音楽ニーズを反映する。そのニーズは何かを考えるのは適切な演奏解釈につながると思う(というかこういうニーズや経済的メリットなどを踏まえた解釈が近年の古楽演奏の発想になっています。バッハもモーツァルトもベートーヴェンも皆、お金をもらって作曲していたプロ作曲家なのです)

1790年頃の弓。左:ヴァイオリン 右:ヴィオラ。当時の音楽ニーズに沿って作られ売られた商品だったはず。ヴァイオリンとヴィオラ、あるいは他の年代ものとの相違点と共通項を考えると道具に求められたニーズを推察できる。

バロック弓も求められた能力は案外現代の弓と同じだったかもしれない(先になるほど細くなる形状から推察されます)。人の好みや文化が急に正反対になることはない。ある日突然「日本のあけぼの」が来たり、ある日突然縄文時代から弥生時代になるわけではないのだ。

楽器の能力を出せることは音楽ニーズに沿った演奏ができていることを意味する。それが上手い演奏と言える。

石田 朋也

1974年愛知県生。2000年名古屋大院修了。ヴァイオリンは5歳から始め、1993年よりヴァイオリンの指導を行う。大学院修了後、IT企業のSEとしてNTTドコモのシステム開発などに携わる。退職後の2005年より「ヴァイオリンがわかる!」サイトを開設し情報発信を行う。これまで内外の1000人程にヴァイオリン指導を行い音大進学を含め成果を上げている。また写真家としてストラディヴァリはじめ貴重な楽器を400本以上撮影。著書「まるごとヴァイオリンの本」青弓社

美しい音が好物。バッハ無伴奏がヴァイオリン音楽の最高峰と思う。オールドヴァイオリン・オールド弓愛好家。ヴィンテージギターも好み。さだまさしとTHE ALFEE、聖飢魔IIは子供の頃から。コンピュータは30年程のMac Fan。ゴッドファーザーは映画の交響曲。フェルメールは絵画の頂点。アルファロメオは表情ある車。ネコ好き。

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