スターンの弾くメンデルスゾーン:演奏とはこういうもの

水曜・木曜は東京にてレッスン。ご利用&お越し頂いた皆様有難うございました。コロナ罹患後初のレッスンになる方もおられ、私の体調面でのご心配も頂き恐縮です。咳はいまだに。食欲もあまりなく。やや疲れやすいのも残っていますが、何かやろうとする意欲はあり気持ちは元気です。

久しぶりにCDで音楽を聴いた。アイザック・スターンの弾くメンデルスゾーンのコンチェルト。1958年録音のユージン・オーマンディ指揮のもの。この50〜60年代がスターンの絶頂期と思う。後年の70年代録音のメンデルスゾーンは今ひとつかなあ。

このCDを子供の頃にメンデルスゾーンを習った時にお手本にしていて、今でもメンデルスゾーンのコンチェルトはこう弾くべき演奏と思う。

ほとんど歌わず無表情かのような辛口の演奏。演奏のストーリー設計が骨太で強い説得力がある。そして品格あるまっすぐで迷いのない美しい音色。音楽には力があると言うならこういう演奏のことを言う。強い信念と卓越した技術、楽曲への共感があってのものだ。

なよなよと甘ったるく安易に味付けされたメンデルスゾーンはちょっと違うと私は思う。名曲を演奏者が思いつきで味付けしてはならない。演奏者は視界から消えて曲が前面に出て来なければいけない。

で、レッスンの空き時間にスターンのヴァイオリンの持ち方でメンデルスゾーンを弾くのが今のマイブーム^^。

楽器をかなり左側に持ち指のお腹で弦を押さえると、あの「燻し銀の音色」が出る。子供の頃はこの弾き方をしていたためか、むしろ現在よりも正確な音程で弾くことができる。ただ大柄でなければ身体に無理があるし、音色は多彩とは言い難い(スターン自身は甘口の人では無いのでそれで良い)。でも、この音、今でも好きだな。

音楽が政治力を持っていた時代。スターンはアメリカが輝いていた時代を生き、音楽界で多大な政治力を発揮し、2001年9月に同時多発テロの直後にニューヨークで亡くなったのは象徴的だ。ほぼ同時期に音楽の政治力は消えた。

この弾き方からスターン独特の演説のような音が出ます。
最も上手い「演説」をする演奏家だろうと思います。
他人を説得する話ぶり。言葉と同じでそれが音楽のひとつのあり方です。
現代では演説のような音楽は求められないかもしれませんが・・・。

石田 朋也

1974年愛知県生。2000年名古屋大院修了。ヴァイオリンは5歳から始め、1993年よりヴァイオリンの指導を行う。大学院修了後、IT企業のSEとしてNTTドコモのシステム開発などに携わる。退職後の2005年より「ヴァイオリンがわかる!」サイトを開設し情報発信を行う。これまで内外の1000人程にヴァイオリン指導を行い音大進学を含め成果を上げている。また写真家としてストラディヴァリはじめ貴重な楽器を400本以上撮影。著書「まるごとヴァイオリンの本」青弓社

美しい音が好物。バッハ無伴奏がヴァイオリン音楽の最高峰と思う。オールドヴァイオリン・オールド弓愛好家。ヴィンテージギターも好み。さだまさしとTHE ALFEE、聖飢魔IIは子供の頃から。コンピュータは30年程のMac Fan。ゴッドファーザーは映画の交響曲。フェルメールは絵画の頂点。アルファロメオは表情ある車。ネコ好き。

石田 朋也をフォローする
演奏技術のお話音色のお話名演奏のお話やってみました思うこと