ヴァイオリンという西洋文化でまがりなりにも仕事をしている身としては、その文化を体験し考えるきっかけを多く持とうとしている。コロナ前は美術館や博物館に毎週のように出かけていて、各国のスタイル・年代による変化と、音楽・ヴァイオリンとの繋がりを漠然と感じていた。
コロナ禍でインドアは不自由になったためアウトドアに代替手段を求めた。そのうちの一つ各国の自動車。自動車はその国の文化を強く表出する。ドイツ車やイタリア車はある程度試せた。最新の電気自動車も試した。そして初めてのイギリス車。
月曜日は休日。相変わらず右腕は痛いし左手のしびれがあるのでヴァイオリンもギターも1日弾かないことにした。布団を干して掃除の後、百塔珈琲の元店長さんがなさっている神保町のお店でいつもながら美味しいカフェラテとプリンを食し、その後丸の内のトラストタワーへ。
カーシェアリングサービスのcarecoでイギリス車のスポーツカー ジャガーF-typeを1時間借りた(利用料金3,000円と比較的お手頃)。ジャガーやローバー、アストンマーチンといったイギリス車に乗ってみたいとは以前から思っていた。若干疑問を感じるイギリスの美意識・センスを実体験として知ることができるだろうかと期待して。

要塞のような複雑怪奇な地下3階の駐車場にcarecoの車両置き場が。
同じフロアにはフェラーリなど高級車もゴロゴロ。
こう言う場所に隠し持っているのね^^;
大柄な車体に戸惑いながらも皇居の周りを2周。見た目や内装の感触と同じく、極めて滑らかなフィーリングの走りで高級・上質とはいかにもこういうものという感じ。


イタリア車のように鮮烈だったり奇抜だったりはしない。
スポーツカーの文脈に沿ったクラシカルで落ち着きのある流麗な形。
深い緑色もよく似合う。

少しピンボケだが内装も落ち着きありシック。
こう言うのを「趣味が良い」と普通は言われるのだろう。
落ち着き払った紳士のような印象だ。雑味なく高い質感で気になるところが何もない。加減速もハンドリングもすべて落ち着くべきところに落ち着いている。それでいていざという時のパワーはあるし、マフラー音を大きくするスイッチやウイングを出すスイッチなどのギミックが心憎い(こういうところに007を感じさせる)。これで乗り付けてシェイクしたウォッカマティーニを注文したくなる。まさにジェントルマンの車だ。
この感触。うちのヴァイオリンにはクローソンのフィッティングが付いているが、その手触りや重量感、それから音色の感触と同じだ。また、手持ちのゴルジのケースの開けた時の感触や内張の布の感触とも共通する。
イングリッシュのヴァイオリンにも共通する感触だ。見た目には実に良い楽器のような雰囲気。耳にうるさく無い落ち着きのある音(ヴァイオリンの音の美意識では「落ち着き」は必ずしも良いことではないが)。
鮮烈なイタリアのヴァイオリンの音はイタリア車と同じ感触だ。ドイツも車と楽器に共通点がある。そしてイギリス車も。とても面白い。
ただ落ち着きある中産階級的な雰囲気は自分には向かないかな・・・。ジェントルな素敵な紳士だなんて自分で笑っちゃうし、シックな高級品が自分に似合うとも思えない。ジェントリー階級が求めた地位の象徴は自分にとっては不要で、クレイジーで鮮烈で主張過多で階級がなく民主的なイタリアのヴァイオリンの音を自分は求めるのだろう。
他の何にも似ていない尖ったイタリアのセンスと、他の何かを吸収し気にならない形へ消化したイギリスのセンス。それが「センスがイマイチ」と言われるイギリスのセンスだとしたら歴史的経緯の上でも納得できることで大変興味深いことだ。