E線の音がひっくり返る

例えば、クライスラー「プレリュードとアレグロ」やメンデルスゾーンのコンチェルト、バッハ「シャコンヌ」の重音を弾く時に、開放弦のE線が中途半端に鳴り「ピー!」とひっくり返った音が出ることがあります。

この弓の状態はE線開放で音がひっくり返りやすいはず

この「E線のひっくり返り」に関しては、解決方法が無いと言われたり、弦の性質として片付けられたりすることがしばしばです。ですが、これは奏法である程度解決できる問題です。

E線のひっくり返りは、弓と弦の関係が不適切で中途半端に振動した時に起こります。「弦をきちんと振動させる弓と弦との適切な加減」を考えながらコントロールすることでかなり解決できます。

「解決方法がない」「仕方ない」、「道具が悪い」と考えるのではなく、できる人がいるなら何らかの解決法があると考えるべきです。伝統的なヴァイオリン教育ではあまりなされないことですが、論理的・物理的に原因と解決方法を考える習慣が必要です。音の出し方や練習に関する考え方の参考になれば幸いです。

駒からの距離:E線で少し駒寄りに

弓がE線に到達する直前に、弓を少し駒に寄せれば解決します。G線D線は通常通りの駒からの距離で、E線にきたらほんの2〜3mm駒に寄せるような感覚で弾きます。

E線がひっくり返る一つの原因は、弓の毛自身でフラジオレットをやっていると考えて良いかと思います。一般的なフラジオレットは弦長に対して特定の比率の箇所(1/2や1/3、1/4など)を左指で軽く触れることで倍音が鳴る現象。この箇所を弓で弾いてしまうと意図しないフラジオレットが出てしまいます。

このポイントを外した箇所を弓で弾くよう心がけることで、ひっくり返ることは少なくなります。

弓の速さ:速過ぎず

一般的に、三和音や四和音を弾く際には「一生懸命」弾きがちになります。そのため、弓の速さが速過ぎになることがしばしばです。

弓の速さが必要以上に速いと、弦を充分に振動させる前に弓が進み音は裏返ります。E線が「ピー!」というのは、弦を充分に振動させることができていない状態ですので、弓の速さを遅くした方がひっくり返りにくくなります。

例えば「G線D線」「A線E線」の2本ずつで四重音を弾く場合は、「G線D線」で中弓まで進むほど速いボウイングではなく、「A線E線」の時点で比較的弓の元(例えば元1/3程度の位置を目指し)に位置している程度の弓の速さで弾くとひっくり返りにくくなります。

三重音を同時に弾くような場合(パガニーニのカプリース24など)は、速い弓でぶつけるのではなく、弦の上に置いておいて弦から弓を離す勢いで弾く感じにすると素直に音が出てくれます。

弓の寝かせ具合:ほんの少し寝せる

弓を寝せると、弓の毛一本当たりにかかる圧力が増えます。その分、一本当たりの引っ掻く力が強くなり、弓を寝せるとE線はひっくり返りにくくなります。

だからといって、弓をむやみに寝せればいいわけでありません。毛の摩擦だけでなくスティックの振動でも引っ掻く力を生み出しているためです。ほんの気持ち程度の弓の角度のコントロールでかなりひっくり返りにくくなるはずです。

弦の選択と楽器の調整:ローテンションに

E線にハイテンションな太い弦を使っているとひっくり返りやすくなります。ひっくり返りを避けるには0.27よりは0.26の方が好ましいと言えます。

また魂柱と駒の関係が不適切な場合もひっくり返ります。ハイテンションの音量重視ではなく、少しローテンションに優しい音にと調整してもらうことでE線のひっくり返りも軽減させることができます。