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19/10/15 私は物わかりが悪いから〜答えはひとつではない

私は物わかりが悪いから〜答えはひとつではない

台風の被害に遭われた方にはお見舞い申し上げます。報道されないような被害に遭われた方もいらっしゃるかと思います。一刻も早く日常の生活に戻ることを願っています。

不意に頂いた3日間は、8年ほど溜め込んで収拾つかなくなっていたデータの整理やPCの整備、サイトの整備、次バージョンの「ヴァイオリンがわかる!」を製作するためにWordPressの勉強・実験、それから1ヶ月お借りしていたヤコブ・スタイナーから学んだ事を自分の楽器で試す作業に使った。それから少しだけ近所の旧古河庭園へ。被災なさった方には不謹慎だが自分には大変有意義な3日間になった。

私は物わかりが悪い。教わったことに「なるほど!」と思えず「そーかなー」と疑問を持つことが多い。ヴァイオリンに関しても教えて頂いたり読んだりしたことにを納得できず、ずーっと疑問に思い続けている事が数多くある。「ヴァイオリンの良い音って?」「ヴァイオリンの正しい弾き方って?」「ヴァイオリンの正しい音程って?」等々。

スタイナーはかつてストラディヴァリの4倍の値段で取引され、バッハやモーツァルトも所有していた名品中の名品。それが現代では1/10だ(1500〜3000万円のイメージ)。最高級品の凋落に理由があるなら、それは音楽や演奏の変化を示すことで興味深い。バロック仕様からモダン仕様に改造された結果台無しになったとも、音はきれいでも音量が小さかったからとも言われる。でも、私は「そーかなー?」と疑問に思ってしまっていた。

クラシック音楽の価値は「土地も歴史も超えた普遍性」にあると考える。スタイナーの凋落は「歴史を超えた普遍性」の大前提に疑問を呈する事になる。クラシック音楽に誠実に向き合うのなら「かつての美意識」は確認しておきたい事柄だ。

しばらく弾かれていなかったのかお借りした当初は低音が薄く鳴らない印象だった。15日程弾き続けるうちに鳴る印象が出てきたが、それは楽器が起きてきたことより弾き方がこの楽器に合っていなかった事が主原因だったようだ。

オーストリア・ドイツ系の楽器という事で、「まさかね」と思いつつ、楽器を低く持ち肘を下げて弾くドイツ式の弾き方を試したら響く音が出た。ドイツ式は現在では「悪い弾き方」の典型例のイメージだが、決して悪い弾き方ではなく、当時のドイツの楽器を響かせるには理にかなった弾き方だったと驚かされた。古い絵画でこの弾き方の描写も多いし、ウィーンフィルでもそういう弾き方の人がいる事に納得がいった(ウィーンフィルはオーストリアの楽器を使います)。


わたしは普段こんな感じで弾くのですが


両肘とも下げて弾かないとうまく響きません。正直とても弾きにくいです。
昔は脇に本を挟んで弾くよう指導されたのですがまさにそのもの。
肩当ても使うことができませんし、音程のコントロールも困難です。

バロック演奏はメッサ・ディ・ボーチェ(「声を乗せる」の意)と言われる発音時より音を膨らませる奏法が特徴だ。そして音を切り気味に弾いたとされる。テンポの速い演奏も多い。スタイナーを響かせるためには少し膨らませたボウイングが必然であるし、音は止めなくても無理なく切れる。スタイナーでうまく響くように弾くと自動的にバロック演奏のようになったし、無理なく速いテンポで弾ける。すなわち「バロック奏法」があるのではなく楽器がそういう弾き方を要求したのだと思わされた。お借りしたのはバロック仕様ではなくモダン仕様のスタイナーなのにバロック的な弾き方を楽器に求められることには驚いた。

きちんと響かせられた時のスタイナーはかなりの大音量だ。ホールで弾くと耳元ではかすれた音でも距離が離れるほど音量が大きく感じられる典型的な遠鳴りだ。ふわっと広がるような肌理の細かい音、低音は豊かで高音は美しい、でも出しゃばり過ぎない。「上質なヴァイオリンの音とはこのことだ」と思わされた。無伴奏曲も曲芸として無理にこしらえた音楽と思っていたが、スタイナーではきちんと音楽として成り立つように聴こえた(特にA=415Hzの場合)。

 

音はひっくり返っているし、音程も怪しいのですが、こんな感じの響く音です
これは現代との比較できるようA=442Hzですが、A=415Hzはもっと響きました。
昔の演奏のように足も揃えたり片足だけ前に出す方が自然に感じられます。

厚みと広がりのあり、それでいて主張し過ぎない音のスタイナーはとても豊かなアンサンブルができるだろうと想像できる。そして実際に合奏すると相手の音がとてもよく聴こえる。ともすれば自分が主張し過ぎて相手の音が聴こえなくなることも多いものだが、ギターとの合奏でもバッハの2つのヴァイオリンのための協奏曲をレッスンで弾いても相手の音がとてもよく聴こえた。アンサンブルをしやすい実用的な楽器という事を意味するし、イタリアよりドイツの方が交響曲など高度なアンサンブルが発達した理由がここにあるのだろうかとも考えさせられた。

曲はかなり選ぶ。バロックや古典派の「語る」音楽には似合うが、ロマン派の音楽には楽器が抵抗を示すし、近代の音楽も「語る音楽」になってしまう。音程感も違う。バロックの頃は「♯は低めに、♭は高めに」と現代とは逆だったとされるが、確かにそういう音程の取り方をすると音楽的に好ましい響きになった。この特性にはかなり違和感を覚えて1ヶ月では解決できなかった。

スタイナーの晩年は不遇で投獄されたり精神を病んでしまったとされる。そして、死後も時代には恵まれなかったと言える。当時の時点で究極の形で完成されていたのだろう。ヴァイオリンの変化の歴史をたどると、
・バロック弓からモダン弓になり(古い弓の方が響いた。バロック弓ならより響くだろう)
・バロック仕様からモダン仕様になり(この変化は確認できず)
・基本ピッチが上がり(A=415Hzの方がよく響いた)
・顎当てが付き(顎当てを外したらよく響いた)
・弦は強くなり(オリーブよりもテンションの弱いオイドクサがよく響いた)
・肩当てが付き(肩当てを外した方がよく響いた)、
と、時代の変化がことごとく悪影響になって響かなくなってしまったのだろう。

そして、演奏方法もロシア式やフレンチ=ベルギー式などが主流になり、時代の変化とともにスタイナーを響かせられる演奏家が減ってしまったのだろう。扱える人が減ればより一層評価が下がる。

お借りしたスタイナー。上手く響かせられた時の音は大変素晴らしく、現代の目で見ても優れた楽器と思ったが、残念ながら時代の変化からは取り残されてしまったようだ。ただ、近い未来こそが本当に上質な音を求められる時代なのかもしれない。バロック演奏をはじめ音の復興の気風は感じられる。その時にスタイナーが評価を取り戻し正当な評価が得られるかもしれない。

ヴァイオリンの演奏法やヴァイオリン音楽のあり方は多様であること、音程すらも一元的なものでは無いこと、決して音楽も楽器も必ずしも進化しているとは言えないこと。長年の疑問の解決の糸口を得られたように思えました。ヴァイオリン音楽の過去・現在・未来のいずれについても大変有意義に学ばせて頂きました。


日常の中でスタイナーを使えたのは大変有意義でした


360年前のヴァイオリンですので、相当な貫禄です。
でも音や弾き方はかつてと大きく違ってはいないのだろうと今回思いました。
古くなるから良くなるわけでもなく、古すぎてダメになるわけでもなさそうですし、
その楽器を響かせられる弾き方が正しい弾き方なのでしょう。

 



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