ヴァイオリンの演奏技術は地味なことが9割で派手なことが1割です。ヴァイオリンは華やかな存在ですが、華やかさを求めるためには9割の地味をこなさないといけません。
地味なこと:届くように音を発することこそ努力を要する
地味なことの最右翼は音を届くように発すること。これには多大な情報量が詰め込まれています。オペラなど声楽家の声が一般人の鼻歌のような声では話にもなりません。その声を出すために適切な指導を受けつつ、技術の構築のために長年の努力を行い、日々の発声練習でその技術の維持を行います。もちろん体力維持や喉を痛めないような日々の努力も求められます。
ヴァイオリンでも音を届くように発するには、
- 安定したボウイングの技術:移弦、発音が目立つが音の持続が難易度が高い
- 安定したフィンガリングの技術:音程、ヴィブラートはもちろん押さえ方も含む
- 歴史を含めた音楽の知識
- ヴァイオリンや弓など道具の質と整備
いずれも長年の努力を要することで、長年の努力を要することは多くの情報が詰め込まれていることと言えます。
派手そうなこと:情報量は少なく大した努力も要しない
速弾きや左手のピチカートなどの特殊技術はとても派手で印象に残りやすいものですが、情報量はほとんどなく、一度できるようになれば大して練習も必要としないし、その日の体調で変化するようなものでもありません。
速弾きも左手が難しそうに見えますが、うまく弾けない多くの場合ボウイングの側に問題があります。左手を意識するあまり弓のコントロールが疎かになり、弓が弦から浮いてしまっているケースはよくあるケースです。
基礎練習とは「普通」ができるため
9割に相当する技術は基礎練習によって得られるものです。単に「音階をこなしたから」「セブシックをこなしたから」基礎練習は習得できたというものではありません。どんな場合でも弓はきちんと音を発していなければいけない。ヴィブラートも無意味にかかったりかからなかったりしてはいけない。
基礎練習の目的は、いつでも同じように「普通」のことができるようにするもの。別の言い方をすれば、全速力で息が上がって為すものではなく「普通」の呼吸で「普通」ができるようになること。普段は気にしないような「普通」は怪我や病気をすれば俄然尊いものと気付かされます。
有用なのはカイザーとクロイツェル
実際の演奏のシーンに近い練習としては多く使われるカイザーとクロイツェルが有用と言えます。特殊な技術はほとんど出てきませんが、よくある問題を実に多く網羅しています。
ただ弾くだけでも一定の効果は得られますが、きちんと弾こうとするのならこれほど難しい教本はありません。全部の音が届く音で響いているように弾くにはボウイング・フィンガリングともに普通のことが全て当たり前に高度にできている必要があります。
丁寧に演奏技術を作っていくのなら1回で終わることはないでしょう。長い時間をかけてこなすと確実に当たり前のことができる技術が身につきます。
維持のために:カールフレッシュの音階とセブシック
ある程度当たり前のことを当たり前にできてはじめて次のステップに進めることができます。小野アンナで最小限の単語や文法は知った上で、カイザーとクロイツェルで実践を試み「当たり前」の入り口に入った上でこそ、カールフレッシュなどの音階はこなすことができると考えています。カールフレッシュはボウイングもある程度できていないとこなせないはずです。
うちのレッスンではあまり採用しない機械的基礎練習のセブシックですが、セブシックを軽視しているわけではありません。ただ、これは相当に弾けるようになった上で進めないと、大量のパターンを速いテンポではこなせないはずです。またセブシックを進めても曲が弾けるようになるわけではありません。逆にかなり弾けるようになった上でセブシックは大変効果があると考えます。
ある程度演奏で必要とされる技術を獲得できたら、やや高度な音階や機械的な基礎練習によって、技術の精緻化と維持ができます。
地味な練習は面倒ですがカッコよくありたいなら
カッコよくありたいのなら、オーケストラの中で良い待遇を受けたいのなら、地味な事をきちんとこなすようにしましょう。勢いでそれっぽく弾いてもカッコいいものではありません。面倒ですが高い音の速いパッセージもまずボウイングできちんと音を出すところから始めて。そこから少しずつ速くしていくと、派手なカッコいい演奏ができるはずです。
演奏のご参考にして頂ければ幸いです。
こういった単純なアルペジオも全ての音が音楽的な生きた音で弾こうとすることは大変技術を必要としますし、その努力はとても良い練習になります。