知っておきたいヴァイオリンの名曲

どんな楽器でも同じ事ですが、ヴァイオリンにも名曲があります。ベートーヴェンの「運命」だったり、チャイコフスキーの「白鳥の湖」のようにクラシック音楽に詳しくない方でもテーマや名前は知っている曲から、一般的には有名でなくてもその分野の人にはよく知られた曲もあります。

ここではヴァイオリンに接する方にとっての「知っておきたいヴァイオリンの名曲」という観点で記します。また、単なる曲紹介やCDなどの音源紹介はありふれていますので、曲の紹介や音源紹介は最小限に、聴き所やヴァイオリンを演奏する側にとっての注意点も記します。

こういった曲紹介に生じる問題ですが、紹介曲以外にも多くの名曲が存在しますし、有名度合い・名曲度合いの判断も人によって異なることでしょう。完全な客観性は困難で独断と偏見での紹介である事はご容赦下さい。ヴァイオリンを弾く上で意義深い曲をご紹介することにしました。

次のようなカテゴリで紹介さします

・クラシック音楽を聴く方なら多くの方がご存じのヴァイオリン名曲
・クラシック音楽に詳しい方がご存じの名曲
・ヴァイオリンの通好みの名曲
・ヴァイオリンを弾く方に広く知られている名曲

弾くべき曲の選択や聴いて発見をする楽しみにお役立て頂ければ幸いです。

なお、該当CDへのAmazonへのリンクを張りました。広告リンク付きですが、収益目的よりも著作権問題の回避を目的としています。画像のサイズもまちまちですが元ファイルの改変をせずそのまま使用しています。ご了承下さい。

クラシック音楽を聴く方ならご存じのヴァイオリン名曲

クラシック音楽を聴く方なら常識のように知っている曲があります。学校の音楽鑑賞で聴かれるような曲です。その中にはヴァイオリン曲もいくつか含まれています。クラシック音楽の「超定番」と言えるヴァイオリン曲を記します。

ヴィヴァルディ「四季」

ヴァイオリンがソロを担う曲の中で最も有名な曲のひとつでしょう。イ・ムジチ合奏団の録音によって一世を風靡し、メジャーになり過ぎて聴き飽きられてしまった感すらあります。けれども、ピリオド楽器を使用するなど近年バロック音楽の演奏に大きく変化が生じて、新解釈にて生命を与え直された現在進行形の曲です。

録音は多いのですが、お勧めできる録音として、ファビオ・ビオンディによる演奏が挙げられます。「春」はこんなに生き生きと、「夏」はこんなに嵐の景色が見えるような音楽だったのかと、私は感銘を受けました。

ヴィヴァルディというとヴァイオリンを弾く人には「a-moll協奏曲」が有名ですが、「四季」の方はレッスンで取り上げられる事の稀な無い曲です。でも、あまりにも有名な曲を自分で演奏できる気持ちは格別なものがあって、自分自身もレッスンは受けた事が無いのですが初めて弾いた時には大いに感動しました。演奏上はイメージ以上に難易度は高めですが、四季それぞれ表情豊かな曲でもありますし「春」だけではなくぜひ弾いてみて頂きたい曲です。

「ファビオ・ビオンディの四季」Amazonではこちら


メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲

上記「四季」もヴァイオリン協奏曲なのですが、ヴァイオリン協奏曲として最も有名と言えるのはメンデルスゾーンでしょう。学校の音楽鑑賞で聴いた方もいらっしゃる事かと思います。昔からクライスラーからオイストラフなど大家と呼ばれる演奏家を始め、世界中の演奏家が録音を残しましたが、案外決定的と言えるような録音が見あたらない曲でもあります。その中でアイザック・スターンがユージン・オーマンディと共演した1958年の録音がクールかつスケールの大きい演奏で自分自身は気に入っています。

超名曲ですし、多くのヴァイオリン教室でレッスンの課題としても多く使用される曲で、今時は小学生のうちからこの曲でレッスンを受ける事も多いでしょう。ですが、実際は超難曲でもあります。

調性の都合もあり弾きにくい箇所が少なからずあり、複数の楽譜を見比べると様々なフィンガリングやボーイングが存在する事は、音楽的かつ確実な演奏を実現するために多くの校訂者が知恵を絞っている証なのでしょう。

更には技術的な難易度以上に、この曲は感情を込めて歌い上げるイメージかもしれませんが、演奏をする上では余計な事は何もできません。「自然に」弾く事を要求される点でモーツァルトの曲と同じく究極の難易度とも言える曲です。まずは楽譜に書いてある事を正しく音に組み立てる事を徹底する事が望ましいでしょう。

「スターン(オーマンディ)のメンデルスゾーン」Amazonではこちら


チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲

メンデルスゾーンに並んで超有名なヴァイオリン曲と言えます。レコードではメンデルスゾーンとのカップリングで収録されるケースが多かったし、名手達の多くが録音をしておびただしい数の録音があります。それだけ売れ筋の曲だったと言えます。

定番とも言えるハイフェッツやオイストラフの演奏は何度聴いても唖然とさせられるのですが、ちょっと意外なところからクレーメルの録音がお勧めできます。これほど美音で弾かれたチャイコフスキーでは無いかと思いますし、他の演奏から得られない独特の世界があります。

多くのヴァイオリン教室で課題として取り上げられる事の多い曲でしょう。ヴァイオリンの演奏テクニック上も難易度は高いですし、2楽章のカンツォネッタは意外とリズムの難易度が高いです。弾きこなすにはかなりの練習が必要ですが、キャッチーなフレーズが数多く出てきますし、しかも丁寧に練習すれば弾ける曲ではありますのでやりがいのある曲と言えるでしょう。ぜひ全楽章を取り組んでみる事をお勧めします。

「クレーメルのチャイコフスキー」Amazonではこちら


クライスラー 愛の喜び/愛の悲しみ/美しきロスマリン

ヴァイオリン曲の小品と言えばクライスラーとも言える定番中の定番の曲です。クライスラーは1920~30年代を中心に活躍した名ヴァイオリニストで、趣味の良さとヴァイオリンの良さが最大限に発揮された曲を多く残し、また、多くの曲をヴァイオリン用に編曲しました。

特に有名な、愛の喜び/愛の悲しみ/美しきロスマリンも大変多くの録音がありますが、クライスラー自身の演奏がお勧めできます。100年近く前のとても古い録音でパチパチとノイズが入り音は揺れていますが、自作自演にしかない潔さを感じられます。他には、パールマンの録音も素敵ですし、これも意外なところでクレーメル(愛の悲しみ/美しきロスマリンがあります)が多彩な音色を感じ取る事ができます。

聴いても簡単に聞こえますし、一見単純な楽譜ですが、弾きこなすのは至難の業です。一般的なヴァイオリン教室のレッスンで取り上げられる事は滅多にないでしょう。演奏には、ラヴェルやシベリウスなどと同じく20世紀の曲と考えて、楽譜に書いてある音の長さなどの指定をきちんと消化しなければ形にもならない曲ですし、余計な事は何もできず、だからといって何もしないわけではないことが要求されます。技術的にもボーイング/フィンガリングともにテクニックを一切感じさせないスーパーハイテクニックが必要な曲の最右翼とも言える曲です。

「クライスラーの自作自演」Amazonではこちら


マスネ タイスの瞑想曲

ヴァイオリン小品の中で最も有名な曲のひとつでしょう。甘美なメロディ、厚みのある低音、無理のない音域で伸びやかな高音など、ヴァイオリンの良さが最大限に生かされた奇跡の一曲と言っても過言ではありません。実際、うまくヴァイオリンがよく響く音が多用されていて、緻密な計算がなされていると感じます。

この曲も録音は大変に多いのですが、往年の名演奏家ミッシャ・エルマンによる晩年の録音を推奨したいと思います。エルマン・トーンと呼ばれた美音の持ち主で、一世代前のいささかロマンティックに歌い上げるタイプの演奏と言えます。耳をつんざく音の多い中、ヴァイオリンの音の文化遺産として遺したい演奏です。

一般的なヴァイオリン教室で取り上げられる事は少ないでしょう。技術的な無理は少ないのですがイメージ以上に演奏は案外困難です。フランス音楽にありがちな複雑なリズムがこの曲でも使われていますし、強弱も細かく指示されています。まずは楽譜通りのリズム・ダイナミクスで弾くことと、音色は弦を鳴らすのではなく楽器を響かせて最上級の美音で弾く必要があります。だからと言って必要以上の感情移入して弾くべきではなく神聖に弾くべき曲です。ですが、名曲中の名曲ぜひ取り組んでみて頂きたいと思います。

「エルマンのタイスの瞑想曲」Amazonではこちら
なお、同じディスクの他の曲も良き時代を思わせてとても素敵です。


サラサーテ ツィゴイネルワイゼン

ヴァイオリン曲で最も有名とも言えるでしょう。有名すぎてむしろ生演奏で聴く機会は少なく感じます。情熱的なメロディと派手な技巧を織り交ぜた、かつては最も難しいヴァイオリン曲とも思われていました。この曲で左手のピチカートや技巧的フラジオレットを初めて知った方も少なくないでしょう。

録音の多い曲ですが、ヤッシャ・ハイフェッツの1951年の録音が定番中の定番、超名演と言えます。もっと速い演奏もありますし、もっと正確な演奏もあります。でも、ハイフェッツ独特のテンションの強さやフレーズ毎の音楽の勢い(ドライブ感)がこの曲にうまくマッチして、聴いていて胸が苦しく切なくなるような思いと速い箇所の鮮やかさには爽快感を得られます。

ヴァイオリニストの書いた曲と言う事もあり、聴くほどには技術的な難しさはなく、思った以上に練習を進められ練習するほど弾けるようになる曲かと思います。ただ、ハイフェッツのように弾くのは誰にとってもほとんど不可能です。

「ハイフェッツのツィゴイネルワイゼン」Amazonではこちら
同じディスク内の序奏とロンドカプリチオーソも超名演です


ベートーヴェン スプリングソナタ

ヴァイオリンソナタの中では最も有名な曲と思います。その名の通り「春」を思わせる1楽章冒頭の甘美なメロディは大変に印象的ですし、決然と意思を示したと思ったら陽が陰ったり再び差してきたりと「春」の心象風景が目に浮かぶようです。その表情の豊かさでもヴァイオリンソナタの中で代表格ともいえるでしょう。

変に歌いすぎていたり景色が見えなかったりピンと来るものはあまり無く名盤の選定の難しい曲と思わされます。その中で、カール・ズスケの録音が端正に真面目に、でも美しく、ピアニストの音も派手でなくても説得力のある演奏に思えました。同じくドイツのヴァイオリニストのアドルフ・ブッシュの演奏も同じ世界を感じさせて、これがベートーヴェンでありドイツの音楽なのだろうと思わされました。

ベートーヴェンの他の曲と同じく、聴いた印象以上に演奏は困難です。ピアニストが書いた曲のためなのかヴァイオリンとして技術的に弾きにくい箇所は多いし、不要なことは何もやらず徹底的に楽譜通りに弾く必要があります。

「カール・ズスケのスプリングソナタ」Amazonではこちら


バッハ 無伴奏ソナタとパルティータ シャコンヌ

無伴奏ヴァイオリン曲の中で最も有名な曲でしょう。それぞれ数曲ずつのセットになった6つの曲で成り立っていて、そのうちパルティータ2番の最後の曲「シャコンヌ」が特に有名です。「宇宙の始まりから終わりまでを表す」とも言われ、クラシック音楽全体で見ても最大級の評価を得る名曲のひとつと言えます。

大変多くの録音があり今なお多くの新譜が出ます。古くはシゲティ、シェリング、クレーメル(旧録音)などヴァイオリンの世界では伝説的な名盤があり、また、バロック演奏の再解釈でバロック楽器による録音も多数出てくるようになりました。その中で、バッハの無伴奏としてはいささかマイナーな録音ですがアルテュール・グリュミオーの演奏を推奨したいと思います。美しい音色と音楽的な勢い、自然な流れが高度にバランスされた演奏と思います。

この曲は、聴いた印象に違わず演奏は大変困難ですし、技術的にも解釈の上でもやるべき事は無数にあります。特に「ひとりで合奏をしている」点で、バス、テナー、アルト、ソプラノの各声部を弾き分けなければなりません。聴く上でもそのことを知って聴くと、聴き方が変わってこの曲の面白さが増すかと思います。

多くのヴァイオリン教室で「無伴奏ソナタとパルティータ」のうちどれかの曲は課題になり大いに苦しめられることでしょう。でも、楽器がとても良く響くように書かれているようで、自分自身は最初に取り組んだときに独特の豊かな響きに感動したことを覚えています。その響きを体験する上でも、シャコンヌは大変としてもぜひ比較的容易な曲から取り組んでみて頂きたいと思います。

「グリュミオーのバッハ無伴奏」Amazonではこちら

クラシック音楽にお詳しい方がご存じのヴァイオリン名曲

クラシック音楽との接し方も人それぞれだと思います。音楽のひとつのジャンルとしてクラシック音楽を聴く方も少なくないですし、クラシック音楽だけが音楽と思う方もいらっしゃることでしょう。ただ、残念ながらクラシック音楽は音楽の中でマイナーなジャンルではあって、「クラシック音楽も聴く方」と「クラシック音楽を聴き込んだ方」との差は大きく感じます。

今回はクラシック音楽を少し聴き込んだ方ならご存じであろうヴァイオリン名曲についてです。

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン協奏曲の中で最も格調高い曲と言って良いでしょう。技巧的とは言えず1楽章は音階練習のようなパッセージの組み合わせで出来ていますし、他の楽章もヴァイオリン的に派手な箇所はほとんどありません。チャイコフスキーのようにキャッチーなメロディが多数出てくるわけではありません。ですが、ベートーヴェンの中でも大傑作のひとつで、俗世界を離れ神の領域に近づいた「音楽」とはこういうものかなとすら考えさせられます。

古い録音でノイズは多いしオケも荒いのですがクライスラーの録音をぜひ聴いて頂きたいと思います。クライスラーの演奏ほどソロの最初からして「香り」を感じさせる演奏は他に知りません。現代のクラシック音楽に失われてしまった「香り」ですが、この「香り」こそが音楽が尊いものである所以なのだろうと思います。

単純な音が並びますが超の付く難曲です。レッスンでやるとすれば最も最後に来るべき曲と言えるでしょう。他のヴァイオリン曲ではあり得ないような弾きにくい箇所があちこちに出てくるし、楽譜通りに弾くことを最大限に要求される曲です。「楽譜通りに」は最も難しいことでもあるのです。

「クライスラーのベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲」Amazonではこちら


ブラームス ヴァイオリン協奏曲

ベートーヴェンと同じくヴァイオリン協奏曲の中で格調高い曲です(実際ベートーヴェンのコンチェルトからの影響を大いに受けているそうです)。3大ヴァイオリン協奏曲の一つにも数えられ、ブラームスらしい重厚さと高度な技巧が織り交ぜられています。

ダヴィド・オイストラフの演奏を推奨します。スケールの大きさと同時にこの曲の詩的な側面が明瞭に表現されているように思えます。クレンペラーとのEMI盤も素敵ですが、音色は下に紹介したグラモフォン盤をお勧めしたいと思います。録音によってかなり音色が違います。

何でも弾けるレベルに達した上でレッスンで取り上げられる事も少なくないはずです。ただ、自分自身はチャイコフスキーが評した「詩情が欠けているのに、異常なほどに深遠さを装ってみせる」に同感で、名曲の理由が今ひとつ理解できませんでした。ですが、習っていた先生にご指導頂いて微細な和声の変化などデリケートな側面に気づかされました。

ヴァイオリン協奏曲の中でも壮大な曲の一つですが、でもヴァイオリンソナタ的なデリケートな側面もあることは、少なくともわたしにとっては自分で弾いて、かつ、先生にご指導も頂かなければ気づくことの出来ない曲でした。ようやく現在では名曲と理解できるようになりました。

「オイストラフのブラームス ヴァイオリン協奏曲」Amazonではこちら
同じディスクにチャイコフスキーやバッハの二重協奏曲も収録されています


ブラームス ヴァイオリンソナタ

上記ヴァイオリン協奏曲に続いてブラームスです。1番の「雨の歌」は特に有名で名曲のひとつですし3番もコンサートで多く弾かれる曲です。また、あまり有名ではない2番も素敵な曲です。まさに「楽器で語る詩」で極めて繊細かつ豊かな表情にあふれた曲と思います。

ウィーンフィルのコンサートマスターだったゲルハルト・ヘッツェルの演奏を推奨したいと思います。演奏家が必要以上に音楽世界から前に出しゃばることが無く、この曲の持つ景色を映し出してくれます。ピアノもうるさくなく素敵な音色と感じます。

一般的なヴァイオリン教室のレッスンで取り上げられる事は少ないかと思います。ことさら表現をしようとするのではなく、まず楽譜に書いてある音符や強弱などを全部忠実に音にしようとするべきでしょう。また音の長さの維持やスタッカートの音の切り方などリズムをきちんと再現する必要があります。楽譜に書いてあることを忠実に行うことでこの曲の詩的な景色が浮かび上がってくるように思えます。

「ヘッツェルのブラームスのソナタ」Amazonではこちら


サン=サーンス 序奏とロンドカプリチオーソ

ツィゴイネルワイゼンとカップリングで録音されているためか、ハイフェッツ盤がよく知られているようにも思えます。技巧的な部分とメロディックな叙情的な箇所とうまく織り交ぜて、毅然としているけれど品のよい曲に仕上がっています。

ハイフェッツ盤がぜひ聴くべき音源になり得るでしょう。ハイフェッツの「夕日に立ち向かう騎士」のような音楽と技巧の冴えがこの曲の毅然とした表情に似合いますし、メロディックな箇所もハイフェッツ特有のロマンティックな表現に似合います。実際同じメロディも箇所によって別の表情に作っていたり、演奏の設計能力の高さを伺わせます。

ヴァイオリン教室のレッスンで取り上げられる頻度はとても高い曲と言えるでしょう。レッスンでは通るべき曲のひとつです。フランス音楽特有のリズムの難しさはありますが、比較的弾きやすくて派手で演奏効果の高い曲のためでしょうか。ぜひ取り組んでみて頂きたい曲です。

「ハイフェッツの序奏とロンドカプリチオーソ」Amazonではこちら
同じディスクはツィゴイネルワイゼンでも紹介致しましたので重複して購入なさいませぬよう


ベートーヴェン クロイツェルソナタ

音楽としての影響力はスプリングソナタよりもクロイツェルソナタの方が高いでしょう。なお、この「クロイツェル」はヴァイオリンを学ぶ人が皆通る練習曲「クロイツェル」のロドルフ・クロイツェルです(ただしクロイツェル自身はこの曲を弾かなかったそうです)。

とても厳しい音楽とも言えますし、トルストイの「クロイツェルソナタ」のような解釈もできるかと思います。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲と並んで「崇高な精神」を体現した曲とも言えます。そういう音楽の聴き方は前時代的とも言えるかもしれませんが、音楽がとても大事にされた時代の象徴的な曲と思います。

やはりドイツ系の演奏家が空々しくなく曲の持ち味を生かすように思えます。スプリングソナタでもご紹介したカール・ズスケ盤も推奨できますが、古いアドルフ・ブッシュの演奏を是非聴いてみて頂きたいと思います。ピアノもルドルフ・ゼルキンでとても素敵な演奏と思います。

音楽的な内容がとても深い曲ですし、協奏曲的で技術的にも高度です。一般的なレッスンで取り上げられる事はあまり無いと思いますが、ぜひ1楽章の主題だけでも弾いてみて下さい。単純な四分音符の連続でもベートーヴェンの音楽にあふれています。ベートーヴェンが偉大と言われる理由が理解できるかもしれません。

「ブッシュのベートーヴェン ヴァイオリンソナタ」Amazonではこちら


モーツァルト ヴァイオリン協奏曲 3番 5番

モーツァルトの天才性を発揮した曲です。この曲が書かれたのはまだモーツァルトが10代だった頃。文字通り何のストレスもなく自然に音が上がって下がってくる。全ての音が落ち着くべきところにある、というタイプの曲です。聴いても弾いてもエバーグリーンの天才とはこういうものなのかと納得させられる曲です。

定番中の定番はアルトゥール・グリュミオーの演奏でしょう。グリュミオーならではの美音と余計な表情をほとんど付け加えない演奏スタイルがこの曲にとても似合っています。また、クレーメルも他の演奏家の演奏とはかなり異なった演奏ですがとても生き生きした演奏でモーツァルトの新解釈になり得る演奏として推奨できます。イザベル・ファウストの演奏はほとんどヴィブラートのない演奏で驚かされますが、モーツァルトの別の側面を発見できます。

技術的にもそれほど困難な箇所はありませんし、多くの教室でレッスンの課題になる曲です。ところがこの曲を生きたものにするのは至難の業で、うまく弾けるのは余計な邪念のない子供か限られたモーツァルト弾きのみとも言われます。モーツァルトはイメージ以上に昔の人で、例えばハイドンなどと同世代の人物であることを意識して、きっちり弾く事がまずは要求されます。

「グリュミオーのモーツァルト ヴァイオリン協奏曲」Amazonではこちら


フランク ヴァイオリンソナタ

フランクのヴァイオリンソナタはヴァイオリンのリサイタルで最も多く演奏される曲のひとつでしょう。漂うような1楽章に始まり、強い感情の錯綜する2楽章、タイトル通り幻想的な3楽章、そして、それまでの総集編、集大成とも言える4楽章と、音楽のストーリーとして波瀾万丈ですし、色彩感あふれる響きがとても素敵な曲です。

推奨できる録音としてデュメイ&ピリスを挙げました。美音ですし充分満足頂けるかと思います。でも、往年の演奏家ティボー&コルトーの演奏が定番中の定番でぜひ聴いてみて欲しいと思います。録音の古さもあり不安定な音程や揺れるリズムが「どこがいいの?」とわたしも最初は思いましたが、確かにこれは歴史に残るべき演奏と長い時間をかかって理解できるようになりました。

レッスンでの課題としては取り上げられる事は多くないかもしれません。楽譜を一見するに単純に見えるかもしれませんが、フランスの音楽らしくリズムは複雑ですし、転調も多く臨時記号も多数出てきて最初は譜読みに苦労するかもしれません。でも、ぜひ全曲通して弾いてみて頂きたい曲です。ヴァイオリンの音色の良さが最大限に現れた曲とも言えます。

「デュメイ&ピリスのフランク ヴァイオリンソナタ」Amazonではこちら


バッハ ヴァイオリン協奏曲1番、二つのヴァイオリンのための協奏曲

ヴァイオリンを弾く人にはとても有名な曲です。二つのヴァイオリンのための協奏曲の1楽章や協奏曲1番はヴァイオリン弾き全てが通る道とも言えるでしょう。

特に「二つのヴァイオリン~」は名手同士の競演も多くありますし、ハイフェッツ盤やクレーメル盤など多重録音で1st 2ndともひとりの演奏家が弾いたものもあります。演奏者によってテンポも大幅に違いますし、バロック演奏の見直しもあり、演奏スタイルが変わりつつある現在進行形の曲です。

そのため推奨できる音源は一つには決められないのですが、学習用としてはダヴィド・オイストラフとイーゴリ・オイストラフ親子の競演のものを推奨します。遅めのテンポで説得力のある語り口の演奏です。

二つのヴァイオリンのための協奏曲の1楽章は合奏の練習としても多くの教室で課題になるでしょうし、弾けなければいけない曲でもあります。でも、1楽章だけでなく各楽章とも素敵な曲で1st 2ndともぜひ取り組んでみて頂きたいと思います。また協奏曲1番も一生ものになりうる名曲です。

「オイストラフのバッハ協奏曲」Amazonではこちら
これはブラームスの協奏曲にて紹介のディスクと同じです。重複してお求めになさりませぬようご注意下さい。

ヴァイオリンを弾く方がご存じのヴァイオリン名曲

一般的にはほとんど知られていない曲ですが、ヴァイオリンのレッスンで広く採用されたり、ヴァイオリンのコンサートの大定番だったりと、ヴァイオリンを弾く経験のある方・ヴァイオリンに強く興味をお持ちの方であればご存じであろうヴァイオリン名曲です。

ヴィヴァルディイ短調協奏曲

ヴァイオリン弾きの間では大変に有名な曲です。「調和の霊感」作品3の6番という名前の曲です。各種教本に課題として掲載されていて、初めてのちゃんとした「ヴァイオリン協奏曲」がこの曲だった方も多いだろうと思います。

イタリア合奏団によるものを推奨したいと思います。とても軽やかな演奏です。「この曲はこう弾くものなのか!」とわたしは最初に聞いた時にとても驚かされました。

とても多くの教室で課題になる曲のはずです。これから取り組む方はもちろん、既に通り過ぎた方も違った観点から改めて取り組んでみて頂きたいと思います。

「イタリア合奏団のヴィヴァルディ調和の霊感」Amazonではこちら


ヘンデル ヴァイオリンソナタ

一般的にはそれほど知られていない曲と思いますが、ヴィヴァルディと同じく、こちらも多くの教本に掲載されているためヴァイオリニストの間では大変に有名な曲です。特に3番4番は定番中の定番で子供の頃に習った方も多いでしょう。

グリュミオーの演奏があります。品良く美しい音はお手本になり得るはずです。うちのレッスンでもしばしば取り上げる曲ですが、やはり良い曲・良い演奏だなあと思わされます。

これも多くの教室で課題になる曲でしょう。音楽としても素敵なものと思いますし、リズムの訓練、ボウイング・フィンガリングともに一段高度なものにする上で大いに有用です。ぜひ取り組んでみて頂きたいですし、改めて取り組み直す価値のある曲と思います。

「グリュミオーのヘンデルのソナタ」Amazonではこちら


ヴィタリ シャコンヌ

ヴァイオリンを習う方がこなすべき小品があります。コレルリ「ラ・フォリア」、クライスラー「プレリュードとアレグロ」、そしてこのヴィタリの「シャコンヌ」はその代表格となる曲でしょう。それぞれ各種ボウイングのテクニックが出てきてその練習曲として使われるためでしょう。ここではヴィタリのシャコンヌを取り上げたいと思います。

お手本になるかどうかはともかくハイフェッツの演奏が強烈です。オルガン伴奏が独特の雰囲気を醸し出していますが、オルガンの存在を忘れさせるような強力な印象の演奏です。これほどハイテンションで感動的な演奏は他に無いと思いますし、作曲家の力よりも名演奏家の力によって永遠の名曲になった例ではないかと思います。

ほぼ全ての教室で課題になる曲ではないでしょうか。多様なボウイングのテクニックが出てきますし、短音・重音ともにヴィブラートをうまく使う練習にもなり得ます。ぜひ取り組んでみて欲しい曲と思います。

「ハイフェッツのヴィタリ シャコンヌ」Amazonではこちら


シベリウス ヴァイオリン協奏曲

「メンコン」「チャイコン」ほど有名ではありませんがヴァイオリンに関心の強い方には有名な曲ですし、弾きたい曲として挙げられることも多いように思えます。特に1楽章はフィンランドの冷たい空気、白夜、吹雪が見えるような曲です。

大変多くの演奏家が録音に残しています。その中でロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団のオイストラフ盤(1965年録音)で、これはシベリウスを演奏する方にはぜひ聴いて頂きたい演奏です。4種類あるオイストラフ演奏のシベリウス最後の録音で、演奏の完成度の高さはもちろん録音の都合なのかこの盤独特の硬質な音色がシベリウスの世界にとても似合っていると感じます。

レッスンで取り上げられる事も少なくないと思います。相当に難易度は高いのですが、シベリウスはヴァイオリンの名手だったためかベートーヴェンのような変な弾きにくさはありません。取り組む価値の高い曲と思います。

「オイストラフのシベリウスヴァイオリン協奏曲」Amazonではこちら


ラヴェル ツィガーヌ

その名の通り晩年のラヴェルによる「ツィゴイネルワイゼン」と言える曲です。前半がゆったりのラッサン、後半がアップテンポなフリスカで構成されるのは「ツィゴイネルワイゼン」と同じですが、ピカソやブラックのようなキュビズムの絵画を感じさせる趣があります。

ここではハイフェッツの演奏をご紹介したいと思います。ハイフェッツが71歳の時に行ったラストコンサートで弾いたツィガーヌの録音が、他の演奏に無い「進行する狂気」を感じさせます。ハイフェッツ並みやハイフェッツ以上に「上手いヴァイオリニスト」は数多いのですが、音楽の持つ狂気を感じさせる演奏は未だに滅多に無いものです。

リズムがややこしいですし音の並びも現代的で新しい感覚が得られるかと思います。1/4拍子なんて滅多に見ないかとも思います。左手のピチカートやフラジオレットの使い方も面白いですし、他の曲に無い響きがあります。難易度は高めですがぜひ取り組んで頂きたいと思います。

「ハイフェッツのラヴェル ツィガーヌ」Amazonではこちら
ハイフェッツのラストリサイタルの録音です。71歳とはちょっと思えません。


パガニーニ 24のカプリース

ヴァイオリンを弾く人にはとても有名な曲で、各種コンクールや試験では定番の課題曲です。特に24番は有名で、ブラームスやリスト、ラフマニノフをはじめ多くの作曲家がこのテーマを用いて新たな作品を作っています。音楽史上も最も広く影響を及ぼしたテーマの一つではないかと思います。

多くの演奏家が録音していますが、その中で比較的最近のユリア・フィッシャーの演奏が高度なテクニックはもちろんエレガントかつ歌心に溢れていてとても素敵です。この曲は汗水垂らして技巧を見せつけて弾くのではなく、イタリア的なエレガントでなければならないと改めて思わされました。

音大受験やコンクールで課題曲になる理由もあり多くの教室で取り上げられるかと思います。難易度は高いのですが取り組んでみる価値のある曲と私は思います。1番から進めるといきなり挫折しますので、13番から進めてみてはと思います。ヴァイオリンというのはこう弾くものなのか、音楽とはこういうものなのかと発見があります。やはりパガニーニは「ヴァイオリンの神様」なのだと思います。

「ユリア・フィッシャーのパガニーニ24のカプリース」Amazonではこちら


イザイ 無伴奏ソナタ

一般的な知名度は低いと思いますし、現代的な響きに抵抗を感じる方も少なく無いとも思います。ですが、最近ではコンサートで取り上げられる事もとても多く、特に3番と4番は有名な曲です。

この曲を世界的に有名にしたクレーメルの演奏が元祖とも言えます(全曲初録音は日本人ですが)。今聴いても輝きを失っていない名演奏と思います。またフランク・ペーター・ツィンマーマンの演奏も素敵です。ですがここではローラン・コルシアの演奏を挙げたいと思います。DVDの「アートオブヴァイオリン」でもイザイを弾いていましたが、独特の解釈で私には面白く聴けます。

最近はレッスンで取り上げられる事も多くなっているのではないでしょうか?大変難易度は高いのですが、4番はまずは比較的取り組みやすい曲ではないかと思います。

「ローラン・コルシアのイザイ無伴奏ソナタ」Amazonではこちら

石田 朋也

1974年愛知県生。2000年名古屋大院修了。ヴァイオリンは5歳から始め、1993年よりヴァイオリンの指導を行う。大学院修了後、IT企業のSEとしてNTTドコモのシステム開発などに携わる。退職後の2005年より「ヴァイオリンがわかる!」サイトを開設し情報発信を行う。これまで内外の1000人程にヴァイオリン指導を行い音大進学を含め成果を上げている。また写真家としてストラディヴァリはじめ貴重な楽器を400本以上撮影。著書「まるごとヴァイオリンの本」青弓社

美しい音が好物。バッハ無伴奏がヴァイオリン音楽の最高峰と思う。オールドヴァイオリン・オールド弓愛好家。ヴィンテージギターも好み。さだまさしとTHE ALFEE、聖飢魔IIは子供の頃から。コンピュータは30年程のMac Fan。ゴッドファーザーは映画の交響曲。フェルメールは絵画の頂点。アルファロメオは表情ある車。ネコ好き。

石田 朋也をフォローする
最小限のヴァイオリンの知識